栗田美術館




 私が半世紀にわたり、執念と気魂を凝結して集めた、伊萬里、鍋島のコレクションを土台として昭和43年10月1日栗田美術館東京本館を開館し、更に昭和50年11月3日足利本館を設立した。以来財団法人として設立許可を受け、博物館法に従って広く一般に公開している。財団法人設立の目的は、文化財は国家国民の貴重なる財産であり、断じて私個人が有するものにあらず、という私の強い信念に基づくものである。

 足利市に建設した栗田美術館本館は、私の郷里でもあり、かつて16世紀の半ば、聖フランシスコ・ザビエルが坂東に大学ありと驚嘆した足利学校の所在地でもあり、古き歴史の香り高きところである。この風格ある伝統の町に、2万坪の景勝の地を選び、自然を生かした作庭の中に、20年の年月と幾多の辛酸を経て完成したものである。

 開館以来個性豊かな美術館として、また格調高く、芸術の神髄に迫る美術館として、陶磁器を愛する世界の人々から、多くの期待と注目を浴びて今日に至っている。この美術館の大きな特色は、日本で初めて生産された磁器のみを展示するもので、江戸時代(1603〜1867年)日本の貴族、豪商、庶民にまたヨーロッパ、アジアの人たちにも最も愛された伊萬里、藩窯として、特別な特別な配慮のもとに生産された鍋島、この二つの作品のみを、自ら集め、自ら設計した展示室に、自ら飾り付けたもので伊萬里、鍋島の作品以外に対しては、一顧だにせざるところに、他の美術館と次元が根本的に異なるところである。いうなれば、この美術館全体が、伊萬里、鍋島に対する至純の情熱を傾けた底深き城郭なのである。

 伊萬里は、天衣無縫にして、絢爛怒涛、鍋島藩窯は、清麗にして幽玄、その格調はあくまで高く共にその美しさは永劫である。300年の歳月を経ても、今窯から焼きあがったような新鮮な魅力、端厳な肌、深い叙情、斬新な創意、典雅な色調、王侯の気品、私はこれらの豊潤な魅力に激しく惹かれて生涯をかけた。

 この道を求めて40年余り、ただ一筋の思想と信念に徹し、やむことなくこの人生に挑戦した。今にして漸く点が線となり一本の道に連なってきた。これからもより深く、より強くこの道を歩み続けることであろう。ここに展示してある作品は、どの一つを取り上げてみても、みなそれぞれに集める苦しさ、楽しさ、懐かしさに満ち溢れている。それにもまして尊いことは、ひれらの作品は、今の時代には到底求めることのできない、名もなき陶士、画工たちの誠の心の作品であり、清廉寡欲な生活の中から生まれた、絶え間ない研鑽の所産である。このよな、不滅の光芒を放つ作品を展示する美術館であるところに、私は大きな意義と誇りを感じるのである。

 私が野火の熱く朱く盛んなる如く情熱の限りを尽くして作り上げた、この美術館が、多くの愛陶家の参考となり、日本のこよなく美を愛した心、平和を希求した生活、生き生きとした美意識を理解し、日本と日本人の生んだ、伊萬里、鍋島に愛情と、執心を深めることに役立つならば、私の大いなる喜びである。

創設者、前館長 故栗田英男




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